アキユウの独り言 blog

エルネア王国の初期国民の妄想、ネタバレ等多分に含まれますのでご注意ください。

3.その花の行方は(シャノン編)

陛下に友達だと認めてもらえてから、少しは陛下に近付けた気がして、私は嬉しくて嬉しくて毎朝鏡の前で姿をチェックするようになった。

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「……うん。よしっ」

 

誰にも聞こえないように小さな声で呟いたつもりだったのに、後ろからママが「今日もシャノンちゃんは可愛いから大丈夫よ」と、クスクス笑いながら声を掛けてきて、恥ずかしくて少し頬を膨らませた。

 

あの日から、少しずつだけれどママと一緒じゃなくても自分から陛下に話しかけられるようになった。

 

私にとったら大進歩!

 

今朝も素早く朝食をとり終えてから、急いで陛下の居室に向かう。本当はママにダメだって言われているけれど、陛下は忙しいから朝一で行かなきゃ中々会えない。

 

元気よく「失礼します!」と居室に入ったけれど、すでに陛下はいなくて。

今日はもう出掛けちゃったのかぁ、としょんぼりしながら噴水通りまで出て来ると、大好きな陛下の後ろ姿が見えて思わず駆け寄った。

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うん♪上出来!

笑顔で挨拶が出来たので、そのまま陛下とおしゃべりしようとすると、陛下が申し訳なさそうな表情で、でも優しく私の頭を撫でた。

 

「すまない、シャノンさん。この後ちょっと用事があって。また今度ゆっくり話そう」

 

そう申し訳なさそうに告げた陛下を見て、しまった!と、陛下から一歩下がってすぐに頭を下げた。

 

「い、急いでいるのに呼び止めてしまってすみません……!えと、じゃあ、また!」

 

恥ずかしさに陛下に背を向け走り出した私の後ろで、陛下が何かを言っていたけれど立ち止まる勇気がなくて、走りながら自分の失敗につい下唇をぎゅっと噛み締めた。

 

失敗しちゃった……。

 

陛下は忙しい方なのに、自分の事しか考えずにベラベラ喋ろうとするなんて、レディの嗜み失格だ。

 

すっかり気分は下降してしまい、ヤーノ市場を抜けてエルネア波止場まで来ると、人混みを掻き分けて懐かしい人が近付いて来た。

一昨年学校を卒業したエゴン君だ。

 

「よ!久しぶり!元気にしてた?」

 

エゴン君は学校でも人気者で、よくみんなを引き連れて遊びに誘ってくれたりしていたお兄ちゃんだ。

長女である私は兄や姉が欲しくて、よくエゴン君にくっ付いて遊んでいたっけ。

うんうん!と、久し振りに会えたのが嬉しくて大きく首を縦に振っていると、エゴン君がハハッと変わらぬ笑顔で笑った。

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こうして大人になった今でも、時々学校の事とか聞いてくれる、相変わらずとっても優しいお兄ちゃんだ。

 

「エゴン君、ここで何してるの?」

 

「あー、ちょっとヤーノ市場に用があって」

 

そう言って少しはにかんだ笑顔を見せたエゴン君に、私は小首を傾げて見せた。

 

「ヤーノ市場でお買い物?」

 

「まぁ、うん。そんなところ。……ミカエラが南国の花束が欲しいってうるさくてさ」

 

更にエゴン君が照れた笑みを見せる意味に私もやっと気付いて、パチンッと両手を叩いた。

カエラちゃんはエゴン君と同級生の女の子で、二人はいつも一緒にいたのを思い出した。

 

「あー!!ついに、ミカエラちゃんに告白したのね!」

 

「ちょ、シャノン!声がでかい!」

 

必死に私の口元を手で覆うエゴン君はなんだか可愛い。クスクス笑いつつも花束を手にするエゴン君が見てみたくて、嫌がるエゴン君の後に無理やり付いて行く。

 

「お前なぁ、」

 

と、渋顔を見せるエゴン君と並んで、先程通り抜けたヤーノ市場へと戻ると、見慣れた黒いマントが目に留まり、私の目は釘付けになる。

 

 

────……陛下だ!

 

 

遠くからでもすぐに分かってしまうその姿に、ドキッと胸は高鳴るけれど、同時に陛下が手にしている“物”に強く目を奪われる。

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───ッ……!

 

その場に固まって動けなくなった。

瞬時にさっきのエゴン君の照れ笑いが脳裏を過って、──ドクリ、と心臓が嫌な音を立てた。

 

まさか、まさか、まさか……っ。

 

そう思うと、もう居ても立っても居られなくなって、陛下のマントを後ろからギュッと掴んだ。

 

少し驚いた表情の陛下が振り返って、私を見てニコリといつもの大好きな笑顔で笑う。

 

「やぁ、シャノンさん。どうし、」

 

「陛下……っ!」

 

今にも自分が泣き出しそうなのが分かって、唇を噛んでグッと涙を堪える。

 

こんな所で泣いちゃダメ……っ。

まだ、何も、聞いていないんだから……!

精一杯、普通の表情を装って聞きたくないけど口にする。

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そう言って、陛下は少し気まずそうに笑った。

 

その、笑顔が意味するものは……?

 

「じゃあ、またね。シャノンさん」

 

そう言って、陛下はまた私の頭を一撫でして去って行く。

 

……その、花の───行き先は……?

 

───悲しくて、……苦しくて。

私は黙って陛下が去って行くのを見ている事しか出来なくて。

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南国の花束なんて……無くなっちゃえばいいのに。

そんな事を、本気で思った。