アキユウの独り言 blog

エルネア王国の初期国民の妄想、ネタバレ等多分に含まれますのでご注意ください。

2.勇気を持って(シャノン編)

あれから───、新年祝賀会はいつもの通り無事に終わり、みんな晴れやかな顔でお城を出て行く。

 

私は沢山の大人達に揉まれながら、必死に陛下の姿を探した。

だって、さっきのあんな挨拶じゃなく、やっぱりきちんと目を見て挨拶をしたい。

 

……だけど陛下の姿はどこにもなくて。

 

そうだよね、みんな今日は朝から忙しいもんね。

そう思いなおして、私もお城の外に出た。

だけど陛下がここを通るんじゃないかって、何度も後ろを振り返ってしまう。

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───でも、誰も通りはしなくて。

 

諦めて、私は学校に向かうことにした。

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だけど、学校にも誰もいなくて。

 

……そっか。

今日は学校もお休みだもんね。

 

ぼんやりと椅子に座りながら、陛下が授業をしてくれていた頃を思い出す。

あの頃、もっとちゃんと陛下とお話ししておくんだった。恥ずかしくてママと一緒の時でなければ話しかけられなかった自分を、今更後悔しても遅いのに、あの頃の自分が悔やまれる。

 

ぽつんと椅子に座っているのが寂しくなって、噴水広場なら陛下が通るかもしれない……!と、私は急いで教室を出た。

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───だけど。

 

……ここにも誰もいない。

みんな今日は、どこに行っているんだろう……?

そう不安になり始めた時、友達のパトリス君が声を掛けてくれた。

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「シャノンちゃん何してるの?」

 

そう聞かれて、なんて答えようか一瞬迷ったけれど正直に答えた。

 

「……えとね、陛下を、探しているの」

 

「陛下?陛下だったら、さっき薬師の森で見かけたから、多分旧市街跡とかじゃないかなー?」

 

パトリス君からの思わぬ情報に、私は嬉しくてついパトリス君の両手を握って飛び跳ねた。

 

「ありがとう!!早速行ってみるね!!」

 

「お、おぅ。行ってらっしゃい」

 

私の勢いにパトリス君は若干引き気味で、でも何故かニンマリと笑って「頑張れよ!」と、背中をトン、と押してくれた。

 

 

 

急いで薬師の森へと向かう途中、雪が降って来た。

ポツリ、ポツリ、と手のひらに落ちては消えて行く。エルネア王国では、雪は降るけれど積もるほどじゃなくて。

 

プルト共和国からの移住で元旅人のママは、少し残念がっていた。プルト共和国では雪が降った次の日は、仕事場にも訓練場にも、住宅地の通りにも沢山の雪が積もっていたようで。

その話を聞いた当初は、羨ましくて、いつかは私も旅人として行ってみたい、なんて思っていたっけ。

 

───だけど、今は。

 

陛下の側で、陛下を支えながら生きていきたい。

 

陛下の事を思い出すと、胸に明かりが灯ったようにじんわりと暖かくなる。

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薬師の森に着くと、やっぱり誰もいなくて。

 

今日はみんな寒いからお家の中に籠っているのかなぁ、なんて考えながら旧市街の森へと向かう。

昼間でも薄暗くて少し怖いなって思ってしまうそこには、何人かの大人の人達が探索に行く為に楽しそうにお喋りをしていて。

 

こうして───、外で陛下が出てくるのを待っている事しか出来ない子供の自分が、時々無性に虚しくなる。

 

ぼんやりと旧市街跡の入り口を見つめていると、ポンポン、と優しく肩を叩かれた。

 

「やぁ、シャノンさん。久しぶり」

 

そこには、去年まで一緒に学校に通っていたフランツ君がいて。

そうか、今日は成人式もあったんだった、と思い至って、すぐにおめでとう!と慌てて声を掛けた。

 

「うん、ありがとう。……そんなに不安そうな顔をしなくても、シャノンさんも来年はここに入れるようになるんだよ」

 

そう言ってフランツ君が私の方を見てニッコリ笑った。

……そんなに、私、不安そうな顔をしていたのかな。

少し恥ずかしくなって、わざと元気に相槌を打った。

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それでも、それが空元気だとバレてしまったのか、フランツ君は優しく笑って私を誘う約束をしてくれた。

去年までは、あんなに一緒になって走り回って遊んでいたフランツ君なのに、なんだか急に大人になってしまったようで、少し寂しく感じてしまった。

それもあってか、なんだかここで陛下が出てくるのを待っているだけの自分を恥ずかしく感じて、フランツ君に手を振り背を向けて駆け出した。

 

お城に帰り着く頃にはすっかり日も暮れていて、寒さが一段と厳しさを増し、肌を刺すような空気の冷たさについ肩をすくめる。

 

───と、目の前に、今日ずっと探していた人の後ろ姿を見つけてドキリと心臓が跳ねた。

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ど、どうしよう───。

声を掛けるべき……?でも……。

 

うだうだ悩んでいる内に、陛下は私に気付かずスタスタと階段を上って行ってしまう。

私も慌てて後を追って、お城の中に駆け込んだ。

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だけど───どんなに慌てて追いかけても、決して陛下は振り返ってはくれなくて。

 

これが、今の私と陛下の距離────。

 

途端に胸がギュッと苦しくなって、諦めて家に帰ろうかと思いきびすを返したけれど、やっぱりどうしても声を掛けたくて、そっと陛下の居室へと近付いた。

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頑張れ、私!!

一声、一声こんばんはって声を掛けるだけなんだから……!

 

そう思い、ギュッと両手の拳を握って一歩踏み出した。

小さな、小さな声で「失礼します」と声を掛ける。

すると、陛下はソファーでひと息付いていたようで、私に気付いて少し驚いた表情をした。

 

「あれ?シャノンさん……?」

 

そう言って、陛下が私の方へと近付いてくる。

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私の表情は硬いままだったけれど、やっと陛下の顔を見てお話しする事が出来た……!

だけどその後の言葉が中々出てこなくて、つい目を泳がせてしまう。

 

すると陛下が、朝と同じように屈み私と目線を合わせてくれて、ニッコリと微笑んだ。

 

「シャノンさん、今朝はすまなかったね。泣かせるつもりはなかったのだけど、嫌わないでいてもらえると助かるなぁ」

 

そう言って、陛下はまた私の頭を優しく撫でた。

一瞬ドキリと心臓は跳ねるけれど、それは。

 

陛下のそれは───、“子供である私”に対しての態度であって、“女性”に対する態度ではないのだと思い知らされる。

 

私だって……あと一年もすれば、大人の仲間入りなのに。

 

胸が苦しくて、早く大人になりたくて、

 

───陛下に、追いつきたくて。

 

私は今の関係を打開するべく、勇気を持って言葉にする。

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私の言葉に一瞬驚いた表情を見せた陛下だったけれど、すぐに私の大好きな笑顔で────「友達だ」と、笑ってくれた。