アキユウの独り言 blog

エルネア王国の初期国民の妄想、ネタバレ等多分に含まれますのでご注意ください。

8.成人式(シャノン編)

段々と、朝は寒くてベッドから出るのがキツイ季節になってきた。

それでも、もうすぐ一年の終わりが近付いていると思うと、ワクワクするような緊張で気が引き締まるような、なんともいえない変な気分だ。

今日も朝食を終えてから、私はこの間陛下にもらったお気に入りのリュックを背負い、家を出て一番に陛下の元へと向かった。

 

***

 

お昼は学校で今年最後の、いや、学生最後の授業を受ける。

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来年からはもう、この学舎にも通えないのだと思うと、なんだか寂しくて。

壁に描かれた落書きや、机や椅子、教卓や黒板を、忘れないように心のアルバムにしっかりと刻み込む。そこにはしっかりと、教師として授業をしてくれていた陛下の姿も刻まれていて。あっという間の三年間だったなぁと、脳裏にいろんな場面が映し出されてつい頬が緩んだ。

 

そして授業が終わると、私は友達の誘いも全て断って一目散にヤーノ市場へと走る。

 

……プレゼントだったら、やっぱりフラワーランドだよね。

 

ママやパパのお手伝いで貯めたお小遣いを握りしめて、ドキドキしながらお店の品物を眺める。

だって明日は、陛下の誕生日なのだ。

私のお小遣いではそんなに大した物は買えないけれど、それでもやっぱり陛下に何か形に残る物を贈りたい。

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本当は、私も南国の花束や香水を贈りたいのだけれど、子供には売ってもらえないのでどうしようもない。

うーん……、と軽く一時間くらいは悩んで、チラチラと南国の花束や香水、宝石の類と手元に決めたプレゼントを見比べては、小さく溜息を吐く。

だけどすぐに首を振って、陛下は値段とかで物の価値を決める人じゃない、と私はフラワーランドのお姉さんにお金を払ってプレゼントを受け取った。

 

***

 

翌朝、いつもより早起きをして陛下に貰ったリュックを背負う。

するとママが朝食にマナナサンドを作ってくれて、「シャノンちゃん、ファイト!」と応援してくれた。私はコクリと少し緊張した面持ちで頷いて、昨日ママに手伝って貰い刺繍を施したプレゼントを抱きしめる。

陛下、喜んでくれるといいなぁ……。

それに、今年は陛下にとっても特別な誕生日。

それは、第二の───成長の魔法が解ける日だからだ。

 

私は緊張しつつも陛下の居室をノックして、「……失礼します」と遠慮がちに声を掛けた。

すると、丁度ダイニングの方へと歩いてくる陛下と目があって、陛下がふわりと優しく笑った。

 

「おはよう、シャノンさん」

「お、おはようございます……!」

 

成長の魔法が解けて、今まで以上に陛下の笑みに深みが増した気がしてドキリと心臓が跳ねる。

陛下の優しげな表情にしばし見惚れていると、「どうかした?」と小首を傾げられたので、慌てて首を横に振った。

 

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勢いが大事だ!と、つい早口でまくし立てるように言ってしまい、少しだけ後悔する。

それでも陛下は、優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。深みを増した陛下の笑みに、どうしようもなくドキドキさせられる。

私はそれを誤魔化すように、急いでリュックからプレゼントを取り出した。
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やっぱり、というべきか、陛下は物凄く嬉しそうに受け取ってくれて、私も自ずと笑顔になる。

 

「あれ、しかもコレ……刺繍がしてある。シャノンさんが?」

「あ、はい!あまり上手くないので、陛下のイニシャルだけですけど……」

 

そう尻すぼみしながら告げると、陛下が嬉しそうに破顔した。

 

 

***

 

陛下の誕生日から、また穏やかに日は進み。

とうとう今年も、今日で終わりを告げる。

 

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陛下や沢山の友達、パパママに挨拶をして今年も終わろうとしていて。

思い返せば、今年も沢山の思い出の詰まった一年だったなぁって思う。

陛下には花束やいむぐるみ、クマのリュックまで貰って、本当にこの一年は私の宝物が沢山増えた一年だった。

だけど、ふと、クマのリュックを貰った時の陛下の寂しげな笑みを思い出して、なんだか少し胸がざわついた。でもだからって、その後陛下に特に変わった様子はないように思うけれど、

 

───……あの笑みの、意味は……?

 

家に帰って物思いに耽る私の肩を、妹のユフィが元気よく叩く。

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彼女は最近農場管理官ごっこをするのがお気に入りのようで、弟のクラウドまで巻き込んでいる。そのうち本気でミアラさんの水槽に変な魚を増やそうとしてるんじゃないかって、少し心配だ。

 

ベッドで寝る準備をする私の元へ、ママがいそいそと嬉しそうに近付いて来た。

 

「シャノンちゃん♪ジャーン!!これ、明日の成人式の時の服準備してみたんだけど、どうかしら?」

 

ママが嬉しそうに、私にワンピースを一着見せてきた。

 

「え!?ママ、これって……」

「うふふっ。そう!この国の国民服よ。可愛く子供用に仕立ててみたの!」

 

ママが無邪気にワンピースと一緒にクルクルと回る。

明日、成長の第一魔法が解ける日だ。

その後思う存分国民服は着る事が出来るけれど、みんなより一足先に着る事が出来るのが嬉しくて、私はママに抱きついた。

 

「ありがとう……!ママ!明日がすっごくすっごく楽しみっ!!」

 

私のはしゃぎように、ママも「シャノンちゃんも、とうとう成人かぁ」と、少し感慨深げに鼻声で私の事をぎゅっと抱きしめた。

 

***

 

翌朝、ウキウキと成人式の服に着替えると、同じく成人組のマイク君がクラウドに会いに来ていたようで、びっくりしたように声を掛けてきた。

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私がマイク君の前でクルクルと回って見せると、マイク君が「いいね、国民服!似合ってる!」とニカッと笑った。マイク君は山岳のシュワルツ家の長男だから、きっと一生国民服を着る事はない。

でも、少しヤンチャな彼には山岳兵の服がとても似合うんだろうなって、今から成人式がもっと楽しみになった。

 

朝食を済ませて少しソワソワしている私に、ママが大丈夫よ、と優しく声を掛けてくれる。

 

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今日こそ本当に、待ちわびた第一の成長の魔法が解けてしまう。

自分がどんな大人になるのか想像もつかなくて緊張してしまうけれど、やっぱり楽しみな事に変わりはなくて。

成人式が始まる前に、陛下に挨拶に行こうと私は家を飛び出した。

すると丁度陛下が居室から出てきたので、元気よく声を掛ける。

 

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陛下が小首を傾げて聞いてくるので、私は少し俯きながら「はい。……ちょっと緊張しちゃってて」と答えると、陛下が腰を屈めて私の顔を覗き込み、頭をポン、と優しく撫でた。

 

「僕も式に出るから大丈夫だよ。目の前でシャノンさんの魔法が解ける瞬間を、見る事が出来るのを嬉しく思う」

 

そう言って、陛下は朗らかに笑う。

その笑顔に、不思議と心は落ち着いていく。

陛下はすごい。

どんな時でも優しくて、その優しさがちゃんと相手の心に染み渡る。

でも、ちゃんと厳しさも兼ね備えていて、しっかり“自分”というものを持っていて。

だから常に、───憧れの存在なんだ。


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ついに成人式が始まった。

目の前で陛下に見られていると思うとやっぱり緊張してしまうけれど、勇気も貰える。

成人組の代表として私の名が呼ばれ、少し震える足を頑張って一歩前へと踏み出した。
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緊張で声が裏返りそうになりながらも、必死に、懸命に想いを言葉に託す。f:id:akiyunohitorigoto:20180727205832j:image

沢山の大人達に見守られながら、私達はここまで育って来れた。その感謝の気持ちが、少しでも多くの人に伝わるようにと想いを込めて言葉にする。

そして、今度は私達がこの国の子供達を守り、みんなで王国を守りながら発展させて行くのだ。
その決心を、この国の王である陛下へと誓う。
緊張しつつもなんとか言葉を紡いだ私を、陛下はチラリと見て笑みを深めた。
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その優しい笑みに、心が安堵で満たされる。

 

神官様が式の終わりを告げる言葉と共に、私達の身体は暖かい光に包まれた。

この国の成長の魔法は、全部で三回解ける日が来る。赤ちゃんから子供への成長が一番最短で解けるので、ゼロの魔法とされていて。

子供から大人へが第一の魔法。

そして、更にその先が第二の魔法だ。

光の暖かさに既視感を感じると共に、懐かしさも感じて、涙が出そうになる。

 

────私……本当に大人になるんだなぁ。

 

気が付いたら、視線の位置がいつもと違ってハッとする。

長い間光に包まれていたような気がしていたけれど、時間にすると多分数秒で。

慌てて自分の手足を見て、ペタペタと身体の線をなぞってみる。

 

私、私……大人になってる……!!!

 

高揚した気持ちのままその場で飛び上がりそうになって、だけどハッとして周りを見回す、と。

こちらを眩しそうに見つめる陛下と目が合った。

ドキン、と一際大きく心臓が波打つ。

 

陛下。

……陛下。

───陛下っ。

 

思わず涙が溢れそうになるのを必死に堪えて、ゆっくり陛下の元へと歩みを進める。

なんだか照れ臭くて、なんて声を掛けようか迷った挙句、やっと絞り出せたのは……、

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そんなありきたりな挨拶だった。