アキユウの独り言 blog

エルネア王国の初期国民の妄想、ネタバレ等多分に含まれますのでご注意ください。

7.友人以上恋人未満(シャノン編)

あの日、仮面越しに陛下と話して以来妙に気恥ずかしくて、陛下と顔を合わせては挨拶はするものの、逃げるようにその場を去ってしまう状態で。

 

でもそんな私の態度にも、陛下は怒る事なく笑顔で対応してくれるから、余計に自分の態度が恥ずかしくなる。

まぁ、どんなに恥ずかしくても陛下に会いたい事に変わりはないので、相変わらず朝一番に会いに行ってしまうのだけど。

 

 

それから───、

星の日から2日後、我が家に新しい家族がやって来た。

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名前はシビルちゃん。

ママに似た真っ白なお肌の可愛い妹だ。

私も早く大人になったら抱っこしてあげられるのになぁって少しだけ残念に思うけれど、寝ているシビルちゃんを眺めているだけでも可愛いので、毎日話しかけてはそっと頭を撫でてあげる。f:id:akiyunohitorigoto:20180725203903j:image

 

そしてその後、ママは見事近衛騎士隊トーナメントで優勝して、来年も騎士隊長に就任する事になった。

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やっぱりママは強くてカッコイイなぁって憧れてしまう。勿論パパもとっても強いけれど、プルト共和国で鍛えていたママには敵わないと笑っていた。

でも、本当は知っているんだ。

パパは元々農場管理官だったけれど、森に討伐に向かうママが心配で、そんなママの事を側でずっと守っていたいから近衛騎士になったのだと、パパのお姉さんが前にこっそり教えてくれた。

だからかもしれない。パパがママと戦う時だけは、少しだけ力を抑えているように見えてしまうのは。

でも、そんな風にパパに思われているママは羨ましいなって思う。

 

私もいつか、陛下にとってそんな存在になれたらなぁ……なんて夢見ずにはいられないから。

 

***

 

学校が終わってから、みんなで幸運の塔の川のほとりまで向かった。

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ここは綺麗なお花が眺められるのと、大人達の告白の場としても有名な場所で、なんともロマンチックな場所なのでつい時間があるとここへと足が向かってしまう。

 

私もいつか……なんて妄想しては、つい顔がニヤける。

勿論陛下から誘われたいという願望はあるけれど、そんな大それた事を願うよりも、やっぱりここは自分から長年の想いを伝えてみたい。

 

───その時陛下は、どんな顔で私の告白を聞いてくれるんだろう。

 

そう思っては、不安と楽しみが半々、いや、不安の方がやっぱり大きいけれど、あと少しで告白出来るようになる自分の成人の日が楽しみでもある。

 

一人そんな妄想に耽っていると、後ろから聞きなれた大好きな人の声が聞こえてきて、嬉しくてパッと振り向いた。

 

……───あ。

 

そこにいたのは、大好きな大好きな陛下で。

でも、その隣には、楽しそうに笑うオクタヴィアさんもいて。

 

頭の中が、一瞬で真っ白になる。

 

───なんで?   どうして?   何してるの?───

 

そんな疑問符ばかりが脳裏を過って、それでも星の日に陛下に聞いた言葉を思い出して、なんとか自分で自分を落ち着かせようとするけれど、──ダメで。

 

不安でドクドクと心臓が煩く耳に響く中、ジワリと手のひらに汗が滲む。

それでも、そんな二人を見ているのがどうしても嫌で、グッと手に力を込めて二人に近付く。

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だけど精一杯の私の頑張りも、二人には気付いてもらえずそのまま二人は楽しそうにどこかへと行ってしまった。

呆然と二人の後ろ姿を見つめる。

 

……陛下は、花束を持っていた。それって……。

 

考えるのが怖くなって、必死に頭を振って“その”想像を頭の中から追い出す。

星の日に聞いた陛下の言葉を信じたい。

だけど、人の心なんて状況に応じて変化するもので。

オクタヴィアさんには恋人がいた気がしたけれど、私の勘違いだったのかもしれない。

……そう思うと、自然と目から涙がボタボタと零れ落ちてきた。

 

───……そうだ。

 

陛下は、“私が大人になったら”とは言ってくれたけれど、“待っていてくれる”なんて一言も言ってない。

それこそ、……私の勘違いだ。

 

***

 

一度家に戻って、部屋に飾っている陛下に貰った花束を眺める。

この花束は王家の温室で育てられているからか、不思議な魔法が込められていて一生枯れる事はない。

だから永遠の愛を誓う花束としても、恋人同士の間で渡すのが流行っているのだと聞いた。

だからこそ、陛下に貰った時……嬉しくて堪らなかったのに。

 

さっきオクタヴィアさんといた陛下が、花束を持っていた事が頭から離れない。

 

それは……陛下が貰ったの?

それとも……あげるの?

 

胸をギュッと鷲掴みされたように苦しくなって、また大粒の涙が溢れてきた。

だけど家にクラウドが帰ってきた声が聞こえてきて、顔を見られたくなくて私は急いで隣の王家の温室へと走った。

 

ここだったら、今の時間帯はきっと誰も来ない。

というより、ここは王家の人達しかほとんど出入りをしないので、今は陛下しかほとんど出入りはしていない。

 

視界の端に、陛下に貰った南国の花が見えて、服の裾をぎゅっと握りしめる。

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すると、後方でコツ──と靴音が聞こえてビクリと肩が上がる。

誰───、そう声に出そうとして振り返ると、そこには……今、一番会いたくない人がいて。

 

驚きと緊張で固まる私に、陛下が不思議そうに小首を傾げて聞いてきた。

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必死に涙が溢れないように陛下の顔を見つめるも、声を発したら涙も溢れてきそうで返事さえ出来ない。

そんな私を、陛下が少し心配そうな表情で覗き込んでくる。

 

「シャノンさん……?」

「………っ」

 

なんで、陛下は……ここに来ちゃったの……?

オクタヴィアさんとどこかに出掛けたんじゃ……なかったの?

 

私のささくれ立った心が、今口を開いたら陛下に八つ当たりしてしまいそうで、必死に唇を噛んで我慢する。

 

それなのに陛下は腰を屈めて私と視線を合わせ、少しだけ眉尻を下げながら私の頭を撫でた。

 

「……何かあった?」

 

陛下のその言葉で、私の涙腺はとうとう我慢の限界を迎えてしまい、ブワリと一気に涙が溢れて来た。

「えっ!え!?」と、慌てる陛下をそのままに、私はもう我慢する事をやめて思い切り泣き出した。

 

「へい、へいかがっ……!陛下がいけないんだもんっ……!!」

「えっ、待ってくれ、すまない、え??」

 

目に見えて陛下は慌てだし、それでも私の涙を優しく指で拭うと「取り敢えず、一度落ち着こうか」と、私の背を優しく押して外へと誘導してくれた。

 

***

 

気が付くと、私は陛下の居室のソファに座っていて、手にはホットチョコレート

家ではマグカップだけれど、今は気品溢れるデザインのティーカップに入れられている。それをコクリと一口飲むと、ふんわりと優しい味がした。

 

飲み終わったティーカップをテーブルにコトリと置くと、陛下が優しく目を細めて近づいて来た。

 

「落ち着いた?」

 

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そう言って、陛下は私の隣へと腰掛ける。

隣に座られる事にも勿論緊張するけれど、それ以前にとんでもなく恥ずかしい姿を陛下の前で晒してしまった、と私は後悔に俯きながら「……すみません」と、小さく呟くように声を漏らした。

 

「いや、それよりも、僕はシャノンさんに何かしてしまった?すまない、原因が思い当たらなくて。嫌な思いをさせてしまったのなら謝りたいのだが、教えては……もらえないだろうか?」

 

陛下の悲しそうな表情に、胸がズキンと痛んだ。

陛下は……何も悪くない。

それなのにこんな表情までさせてしまって、申し訳なくて俯きながらギュッと目をつぶった。

 

「……違うんです。陛下が……陛下は、オクタヴィアさんの恋人なの……?」

「え?」

 

陛下の驚く声に一瞬耳を塞ぎたくなったけれど、グッと堪えてゆっくり目を開ける。

ここで逃げても、現状は何も変わらない。

それならば、笑顔で祝福までは出来なくても、最後まで陛下の言葉を聞いてそれから「おめでとう」ぐらいは言いたい。

そっと陛下の方へと視線を向けると、そこにはキョトンとした表情の陛下がいて。

思わずえ?と口を開けると、陛下が小首を傾げた。

 

「オクタヴィアさん?どうして?彼女は同級生の恋人がいたと思うけど……いや、年下だったかな?」

 

陛下の言葉に、今度は私がポカンとする番で。

 

「え、だって……今日、幸運の塔で陛下が花束を……」

 

ポカンとしたのも一瞬で、今日の出来事を思い出しながら眉尻を下げつつ陛下を見ると、陛下は「あぁ」と、何かを思い出したように頷いた。

 

「あれは恋人に贈る手作りの花束に、永遠に枯れない魔法をかけてほしいってお願いをされてね。王家の温室に王家の人間が花束を置けば、自然と魔法はかかるんだ。そしてその花束に幸運の塔の花を混ぜたいって依頼されたから手伝っていたんだよ」

 

陛下の言葉に、今度こそ本当にポカンとしてしまった。

 

え……、じゃあ、私の早とちり……!?

 

呆然とする私を見て、陛下が少しだけ口の端を上げ横から顔を覗き込んでくる。

 

「もしかして、オクタヴィアさんと恋仲だって勘違いして、僕はシャノンさんの中で嘘つきになっていた?」

「え……だ、だって、あんな場面っ」

「ふーん、へぇ、そう」

「だっ、だって、陛下はオクタヴィアさんと仲が良かったし……!」

「そうだね、友人だからね」

「ティ、ティルアさんとだって同じくらい仲良いし……!」

「おっと。もしかしてティルアさんの事も疑ってる?彼女、最近奏女やめたのに気付いた?」

「え……」

 

私が一気に青ざめると、顔を覗き込んでいた陛下が顔を逸らして吹き出した。

 

「ふっ、……ククッ、ハハハッ!違うよ、彼女は“恋人”と結婚する為にやめたんだ。勿論、相手は僕じゃない。ティルアさんも友人の一人だよ」

 

陛下の言葉に、今度は一気に顔が真っ赤に染まる。

つい勢いで、ティルアさんの事まで口にしてしまって、これじゃ私が常に陛下の事を追いかけている事がバレバレだ。

 

でも、同時にホッとする。

オクタヴィアさんやティルアさんは、別に恋人がいて。陛下も二人は友人だと認めてくれた。

 

………じゃあ、私は───?

 

私は、陛下にとって……どんな存在?

 

いまだに目尻の笑い涙を拭っている陛下を、隣からジッと見つめる。

 

「じゃ、じゃあ、」

 

意を決した私の言葉に、陛下は「うん?」と小首を傾げてふわりと優しく笑ってくれる。

ドキドキと心臓は煩くて、顔がまだ赤いのも承知だ。それでも、今、───聞いてみたい。

 

「わ、私は……陛下にとって、友人に、なれてますか……?」

「………」

 

私の言葉に、陛下は一瞬ハッとした表情をする。

けど、すぐにふわりと優しく微笑んだ。

 

「勿論。……僕にとっては、特別な存在」

「え?とく、べつ……?」

「そう。はい、後ろ向いて」

 

くるりと陛下に背を向けさせられて驚いていると、何かを肩に掛けられる。

え?と思い後ろを振り向くと、背中に可愛いクマのリュックがチラリと見えた。

 

「え、これ……」

「特別な証。そうだな……シャノンさんは、友人以上、恋人未満ってところかな?」

 

ニッコリ笑う陛下に、ドキドキと胸は高鳴って。

これって、……これって、少しは他の人達より陛下と仲良しだって思ってもいいの……?

 

嬉しくて、でもドキドキし過ぎて「……ありがとうございます」と、更に顔が赤くなるのが止められなくてつい俯きながらお礼を言ってしまった。

するとポンポン、と陛下がお決まりのように私の頭を撫でてくれる。それが嬉しくてゆっくり陛下を見上げると、何故か一瞬、──寂しそうに陛下が微笑んだ。

 

 

「───僕にとって、……は……特別なんだ」

 

 

陛下がボソリと呟くように言ったので、よくは聞こえなかったけれど、なんだかその寂しそうな顔が妙に心に引っかかった────。