アキユウの独り言 blog

エルネア王国の初期国民の妄想、ネタバレ等多分に含まれますのでご注意ください。

1.あたしの一日(ウィルマリア編)

あたしの父ちゃんは、ワイアット ・ガイダル。

ここ、エルネア王国の現国王で。

そして母ちゃんであるシャノン・ガイダルは、国王である父ちゃんを支えるべく、現在近衛騎士隊長、兼、評議会議長。

そんな二人から生まれてきたあたしは───、

 

周りから『殿下』と呼ばれるこの国の王女、ウィルマリア・ガイダル───。

 

……まぁ、王女といっても他のみんなとほとんど生活に変わりはないのだけれど。

 

 

 

f:id:akiyunohitorigoto:20190511211834j:image

 

───そんなあたしもつい先日入学式を迎えて、今日から学生生活の始まり!

 

ってなわけで、朝から鏡の前でお洒落に勤しんでいると、後ろからあいも変わらずラブラブな両親の声が聞こえてきて、思わず溜息が漏れそうになる。

……母ちゃん、朝から父ちゃんに抱きついてるし。

鏡越しで全部見えてるし!

f:id:akiyunohitorigoto:20190511211825j:image

ちらりと見えた若干苦笑いの父ちゃんも、本当は絶対嬉しいくせに、と朝からイチャイチャする両親に呆れつつも、あたしの口元もなんだかんだで少しだけ緩む。これがあたしの日常だ。

 

 

 

あたしの両親は、それはもう運命的な大恋愛だったと母ちゃんに何度も聞かされてきた。

あたしが今よりもう少し小さかった頃は、恋愛になんて全く興味がなかったから、ふーん……ぐらいにしか聞いていなかったけれど。

今なら……分かる。

あたしにだって、運命だったら良いなって思う……“好きな人”がいるから。

 

あたしの一日は、両親のラブラブを横目に朝食を摂ることから始まって、朝食が済んだらすぐに温室に向かう。
f:id:akiyunohitorigoto:20190511211841j:image

そして温室で“ハチミツ”を採取してからせっせと魔法のカバンに押し込んで、向かう先は一直線!

f:id:akiyunohitorigoto:20190511212059j:image

そう、彼があたしの好きな人!   レノックスだ。

レノックスは近衛騎士のジミーさんの息子で、あたしよりも三歳年上だ。

一目見た時から、王子様然とした彼の容姿に完全なる一目惚れだった。勿論、ぶっきらぼうな性格の割には優しいところもある彼の中身も大好きだけれど。

毎日欠かさずレノックスに朝一で会いに行く。

そしてすかさず恋人が出来ていないかの探りを入れるのがあたしの朝の日課だ。

母ちゃんにはよく、もう少しお淑やかに……なんて小言を言われるけれど、そんな事してたら誰かに取られちゃうし!恋は先手必勝なんだから!

 

「おはよう、殿下」

「おはようレノックス!  まだ恋人は出来てない!?」

 

あたしの素早い質問に、レノックスはいつもの如く苦笑いを零す。

 

「そうだね、まだ恋人はいないよ」

「ふふ!  良かった! じゃあまた後でね!」

 

レノックスは“エナのほほえみ”というモテ男の天賦の才を持って生まれているので、油断するとすぐに誰かに告白されてしまう。

だから毎朝この瞬間は、簡単に聞いているようで実は神経をすり減らしている質問だったりもするのだ。あたしが成人するまであと三年。それまでなんとか待っていてくれないかなぁ……なんて、いつも願ってしまう。

 

 

 

レノックスとバイバイしてからは、学校の授業の時間まで友達に挨拶したり王国中を駆け回る。

しかも今日は朝から雪が降っていた為、いつもよりもテンションが上がってしまう。f:id:akiyunohitorigoto:20190511212114j:image

あたしより一歳年上のルシオだ。

年上のくせに、やっぱりレノックスに比べるとルシオは全然お子ちゃまなんだから、とぼそりと呟くとルシオが「脳筋ワイルド王女には言われたくないね」と、雪球を投げて来た。

 

「の、脳筋!?  こんの、やったわね!!」

 

確かに恋愛に目覚めるまでのあたしは、身体を鍛えたくて探索に早く行きたくてカレーばかり食べていたけれど!  未だに母ちゃんだけじゃなく、父ちゃんにまでウィルマリアさんはワイルドだなぁなんてよく笑われるけれど!  脳筋だなんて!  人を筋肉バカみたいにっ!  筋肉って大事なのよ!?

 

ルシオに雪球の渾身の一撃をお見舞いすると、彼は一瞬呆気に取られていたけれどすぐに雪球を投げ返して来た。……ルシオとは、いつもこんな感じだ。

 

しばらくして学校に着くと、学生になって初めての授業が行われた。

f:id:akiyunohitorigoto:20190511234204j:image

様々な職業の先生が授業をしてくれるとの説明にワクワクしてくる。

元来あたしは、ワイルドな性格も相まってか根っからの冒険好きだ。だから探索も大好きで、授業で未知の世界を知る事もワクワクするから大好きだ。

 

明日からの授業も楽しみだな、とお弁当を頬張りつつも、学校が終わったらレノックスに会いに行こうと魔法のカバンから導きの蝶を取り出す。

この蝶は会いたい人を思い浮かべると、その人の元へと導いてくれる不思議な蝶だ。

 

早速学校が終わると同時にレノックスを心の中で探すように思い浮かべる。

ふふ!   農場にいる!

畑仕事かなぁと、農場まで急ぐとレノックスが知らない女の人と歩いている姿が目に飛び込んできた。f:id:akiyunohitorigoto:20190511212122j:image

むぅ……。旅人のお姉さんか。

二人で楽しそうに話している姿を見ると、二人の間に割って入って行きたくなる。

もおぉぉぉ!  早く離れてよおぉぉ!!!

二人が離れるのを側でソワソワ待ちながら、急いで魔法のカバンに手を突っ込む。

母ちゃんから教わった、簡単だけれどマナナサンドだ。

f:id:akiyunohitorigoto:20190511212102j:image

二人の会話が途切れた瞬間を狙ってすかさずレノックスに話しかけた。

ふふふ。男は胃袋で掴めって叔母であるユフィに聞いたのだ。

本当は一日中レノックスに張り付いて見張っていたいところだけれど、あたしに学校があるように彼にも付き合いや仕事というものがある。

それでもギリギリ一緒にいられる瞬間までは、とレノックスの側でハーブ採取をしていると、二歳年上のクライブに鉱石採掘に誘われた。

元々身体を動かす事が大好きなあたしは、大抵の誘いは断らずに着いて行く。f:id:akiyunohitorigoto:20190511212107j:image

好奇心旺盛なクライブは、よく洞窟の中まで行きそうになって周りの大人に止められている。

まぁ……気持ちは、分かるけれどね。あたしも洞窟の探検に行きたいから。

でもクライブはあたしよりもまだまだ力が弱くて、たまに採掘中のモンスターにコテンパンにやられて泣いているのを見かけるから、あたしも注意を促した。

それから各々採掘しようと場所を移動してふと顔を上げると、目の前に大きな黒い影が見えて一瞬ビクリと肩を上げてしまった。

 

「あ、やぁ、殿下。採掘に来たの?」

「ラザール!」

 

こちらへと振り返った人物を見て、もう、ビックリさせないでよ!  と、小さく溜息を吐いた。

f:id:akiyunohitorigoto:20190511212125j:image

ラザールはあたしよりも六歳も年上の大人だけれど、お人好しの性格のせいか結婚どころか未だに恋人もいない。

レノックスにいい寄る女性陣を紹介してあげたい、と思うくらいにはあたしも心配していたりするのだ。

ラザールは、あたしのじぃじに雰囲気が似ているせいか、年上だけれどなにかと世話を焼いてあげたくなってしまう。

 

「ラザール、恋人探しは順調なの?」

「うーん。まだかなぁ」

「まだ!?  まだって、そんな悠長な事言ってられる時間ないわよ!」

「んーそうだねー。はは、殿下は手厳しいなぁ」

 

ついつい眉間にシワが寄ってしまいそうになるけれど、彼のこの人好きするふんわりとした笑顔に、結局いつも「しょうがないなぁ」と、追求する気持ちが削がれてしまう。

そしてやっぱり最後はほっとけなくて、あたしが大人になったら紹介してあげよう、で終わるのだ。

 

 

 

そんなこんなであたしの一日は瞬く間に過ぎて行く。

でも一日の締めくくりはやっぱりレノックスに会いたくて、また蝶で彼を探してしまうのだ。f:id:akiyunohitorigoto:20190511212105j:image

また他の女と採取に来ている……!

しかも、もう夜なのに……!

悶々としながら、レノックスの服の裾をギュッと握って今からどこに行くのか詰め寄った。

勿論、家に帰るんだよね!?  という想いを込めて。

 

するとレノックスは、目を細めてふわりと笑った。
f:id:akiyunohitorigoto:20190511212118j:image

レノックスの言葉についつい一緒に行きたくて本音が溢れると、ポン、と優しく頭を一撫でされた。

 

「殿下もお家に帰ろうね」

 

ぶっきらぼうな彼とは思えないくらいふわりと優しく微笑まれて、あたしはもうイチコロだ。

 

うっ……!  ずるいっ!!

そんな柔らかな笑みは反則だっ!

 

……こうして、半強制的にレノックスに城まで連行されてあたしの一日は終わるのだ。