アキユウの独り言 blog

エルネア王国の初期国民の妄想、ネタバレ等多分に含まれますのでご注意ください。

13.積み重なる幸せと不安と。(シャノン編)

「もうっランダル君!それ先に乗せちゃダメよ!」

「えっ、ゴメン……」

 

今朝は、ママ達の騒々しい声で目が覚めた。

ダイニングがやけに騒がしいなぁと覗いてみると、ママとパパが何やら楽しそうにキッチンで料理をしている。

普段パパはクールなのに、こういう時ママに怒られるとしょんぼりしているのが目に見えてわかるから、子供ながらに可愛い人だなぁといつも思う。

クラウドとユフィも二人の周りをチョロチョロしながら何やら楽しそうだ。

 

「おはよう?」

 

と小首を傾げつつみんなの方へ近付くと、みんなが笑顔で「お誕生日おめでとう!」と口々にお祝いの言葉をくれたので、あ…!と自分で自分の誕生日を忘れていた事に気付く。

私の中で、成人するまでは誕生日が待ち遠しくていつも指折り数えていたけれど、いざ成人してみるとすっかり頭から誕生日が抜け落ちている自分の単純さに、思わず苦笑いが溢れた。

それでも、ママに席へと促されてこうしてみんなにお祝いしてもらえると、嬉しくて自然と笑顔になる。

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いくつになっても、やっぱりお祝いの言葉って嬉しい。家族の温かさがひしひしと伝わってきて、同時に陛下の顔が頭に浮かぶ。……そういえば陛下は、ご兄弟はいらっしゃってもみんな結婚して居室を出ているのでいつも居室に一人きりなんだよなぁと、なんだか胸がチクリと痛んだ。

 

***

 

陛下に会いに行こうと玉座の間へと出ると、同じ成人組のマイク君が小さく手を振って近付いて来た。f:id:akiyunohitorigoto:20180814091944j:image

こうやってお祝いの言葉を直接言われると、嬉しくて自ずと笑顔が溢れる。

マイク君は弟のクラウドと昔から仲が良い。だけど本来山岳家の彼は、普段山岳地区で仕事をしている為中々会う機会がない。

そんな彼がわざわざお祝いの言葉を言いに来てくれた事も嬉しくて、ついつい話しが弾んでしまった。

 

マイク君が行ってから慌てて陛下の居室に行くも、既に陛下はいなくて。

慌てて街角広場まで出ると、友達のアラベラちゃんが笑顔で声を掛けて来た。
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お祝いの言葉が嬉しくて、ついついアラベラちゃんとも話しが弾む。

アラベラちゃんも成人式のその日に、ずっと仲が良かったマヌエル君に告白したらしく、上手くいったのだと嬉しそうに報告してくれた。

 

アラベラちゃんと別れてから陛下を探そうと思っていたけれど、思いがけず沢山の友達に誕生日のお祝いで呼び止められて、ついつい嬉しくて話し込んでしまった。

 

それから、やっとの事でエルネア波止場を抜けて神殿通りまで来た時、ふと顔を上げた先に陛下の姿が見えた。

丁度神殿から出てきたところだった陛下は、手に花束を持っていて。なんて声を掛けて良いのか分からず、少しだけ困惑する。

けどすぐに立ち竦む私に気付いた陛下が、小さく微笑みこちらへと近付いて来た。

花束を見つめながら表情を曇らせていく私に気付いた陛下が、ふわりと優しく微笑む。

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陛下のその言葉だけですぐに気分が上昇する自分の単純さに笑えるけれど、こうして陛下にお祝いの言葉を直接貰えると頬が緩むのもしょうがない。

耳がじんわりと熱くなるのを感じながら、「ありがとうございます…!」と微笑むと、陛下が一瞬視線を自分の手元に落として、それから再度私の方を真剣な表情で見つめてきた。f:id:akiyunohitorigoto:20180814092025j:image

そう言って、陛下が手に持っていた花束を差し出してくる。

まさか自分へのプレゼントだとは思わなかったので、一瞬思考が停止して瞬きをパチパチと繰り返してしまった。

 

───南国の、花束。

 

魔法の込められたこの花束は枯れる事がなく、巷の恋人達の間では永遠の愛を誓うプレゼントとして重宝されている。

前に陛下に初めて貰った時は、仲直りのしるしとして貰ったけれど。

恋人となった今、その意味は───。

震える手に力を込めて、そっと陛下から花束を受け取る。色とりどりの花からは、とても優しい香りがして。そしてちらりと神殿の花も混ざっているのが見える。込み上げてくる嬉しさに、涙が出そうになった。


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その私の返事に、陛下はどこかホッとしたように優しく微笑んだ。

 

 

***

 

家に帰ってから、ルンルンで花束を部屋に飾る。

また一つ、陛下から貰った宝物が増えた。

陛下への“好き”が、どんどん膨らんでいく。勿論子供の頃から陛下の事が大好きだった事に変わりはないけれど、恋人となった今、その“好き”は留まるところを知らない。

 

そんな私に、ママが嬉しそうに話しかけてきた。f:id:akiyunohitorigoto:20180814092029j:image

するとママはふふっと笑って「……あの方も余裕そうに見えても、独占欲は強いのねぇ」と、よく分からない事を楽しそうに呟きながらダイニングへと行ってしまった。

 

 

***

 

それから私は、順調に陛下とデートを重ねていった。

───毎日が、とても幸せで。

 

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陛下とご飯を食べに行ったり、
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神殿に花を見にも行った。

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時にはこっちが真っ赤になるようなセリフを、笑顔でさらりと言われたり。

とにかく、毎日が新鮮で、幸せで。

───……だから胸の奥に燻る不安には、蓋をして気付かないフリをする。

だけどまさか、その蓋が簡単に開いてしまう日が来るなんて───思いもしなかった。

 

***

 

いつも通り朝一で陛下の居室へと向かおうとすると、学生時代に仲の良かったジョルディ君が少し俯き気味に声を掛けてきた。

 

「お、おはよう、シャノン」

「……?ジョルディ君?おはよう、こんな朝早くからどうしたの?」

 

小首を傾げる私に、ジョルディ君は意を決したようにパッと顔を上げる。

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ジョルディ君の質問の内容に、すぐさま陛下の顔が浮かんでほんのり頬が赤く染まる。

少しだけジョルディ君から視線を逸らして、素直にコクリと頷いた。

するとジョルディ君は視線を下げ、少しだけ唇を尖らせて「……ふーん」と言うと、またジッと私の顔を見つめてきた。
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ジョルディ君の質問に一瞬目を見開いて固まってしまったけれど、すぐに曖昧に返事をして誤魔化した。

その私の返事にジョルディ君は少し嬉しそうにニッコリ微笑むと、何やら告げて去って行ったけれど、さっきのジョルディ君の問いが引っかかって頭には何も入ってこない。

 

───“結婚するんだ”───。

 

その言葉に、大きく心を揺さぶられたような気がした。

ずっと───、

ずっと気になっていたけれど……、気付かないフリをして心に蓋をしてきた。

それが今、ジョルディ君の言葉をきっかけに蓋が緩んでどんどん溢れ出そうになってくる。

 

私と、陛下。

両想いにはなれたけれど、“想いの強さ”に差があるのは明白で。

 

陛下はきっと───私が想う程、私の事を想ってくれてはいない。

恋愛に個人差なんて付き物で。

“自分と同じように”なんて、無理だって頭では分かっている。

けど、いつも……いつも。デートに誘うのは私からで。陛下から誘ってもらえたのは、最初の一回だけだった。

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勿論私が誘ったら、快く受け入れてはくれるけれど……それでもどこか、寂しくて。

陛下に誘ってもらいたくて自分から誘うのを我慢していた日もあったけれど、自分から会いに行かなければその日陛下に会う事さえも無かった。

陛下に誘ってほしいけれど、陛下に会えないのはもっと不安で。忙しい人だから、と理由を付けて不安を呑み込んでは、気付かないフリをして。

独りよがりになっちゃダメだって思うのに、片想いの時期が長過ぎて、今の幸せを失う事が怖くて堪らなくて。

自分でも、拗らせてるなぁって思う。

 

ジョルディ君と話した後、とてもじゃないけど笑顔で陛下に挨拶とか出来そうになくて、当てもなくフラフラと王国内を歩き回る。

すると気付かないうちに昼の一刻になっていて、慌てて街角広場へと向かった。

今日も陛下とデートの約束をしている。勿論私からだ。

いつでも優しい笑みで迎えてくれる陛下の側は、とても居心地が良くて。

絶対にこの手を失いたくないと、目的地に着くまでの間自ずと陛下の手を強く握った。

 

水源の滝に着いて、しばらく陛下と会話をしながら滝を眺める。

せっかく楽しみにしていた陛下とのデートなのに、どこか会話の返事が上の空になってしまう。

すると陛下が私の顔を心配そうに覗き込んだ。

 

「シャノンさん、もしかして具合でも悪い?」

「えっ……、あ、いえっ!大丈夫ですっ、ごめんなさい」

 

私の返事に陛下は少し考える素振りを見せて、何も言わずに私の頭をポンポンと優しく撫でた。


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そう言いながら、陛下が私の方を見てニッコリ微笑む。陛下の言葉に一瞬心を読まれたのかと焦って、「あ、えと、し、神殿のアトリウム、とか」と早口で伝えると、陛下が少し驚いた表情でこちらを見た。

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その陛下の驚いた表情に、サァッと一気に青褪める。しまった、と思ってももう遅い。

これじゃまるでプロポーズを強請っているかのように聞こえてしまう。

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慌てて無理矢理笑顔を作り、陛下の背中を遊歩道へと向かって押し進める。

どうにもバツが悪くて今は顔を見られたくない。

必死に陛下の背中を押す私の右手を陛下はヒョイッと掴み、そのまま前へとグイッと引っ張られた。

思わず「わっ」と叫び、陛下の背中に抱きつく形になってしまい慌てて離れると、陛下がくるりとこちらを振り返って「残念」と、肩を竦めて笑ってみせた。けれどすぐに私が気まずげに視線を伏せたので、少しの沈黙の後、

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───と、陛下が手を差し出して来た。